おやじは荒野をめざす【カナダ編】

30年間続けた塾を閉じ、私は北極海をめざす旅に出た。物好きオヤジの旅の記録が教え子たちへの課外授業となってくれることを願って、このブログを綴る。

(16) 留学は誰でも挑戦できるぞ

  今日は(14)の話の続きだ。N君・Mさんに加えてニュージーランド留学から帰ってきたYさんにも来てもらったぞ。

私 やあ、Yさん。元気そうだね。ニュージーランドはどうだった?

Yさん 先生、お久しぶりです。最後まで勉強頑張れました。英語はまだペラペラとはいかないけれど、ペラくらいにはなったと思います。それと、家を出て外国で1年生活したってのがとてもいい経験になったと思います。最初はヘマばっかこいて涙の毎日だったけど、私なりに頑張れたし、それが自信になってます。先生にはご心配かけましたが、本当にありがとうございました。

私 いやいや、いい経験をしたようでよかった。留学するって聞いた時はどうなることか心配だったけど、頑張ったんだね。素晴らしいことだよ。先生も本当に嬉しいよ。

Mさん 留学行ってたんだ。すごいなあ。私も行きたい。でもお金かかりそうね。

私 確かにお金はかかるよ。でも、若い時の経験はお金なんかよりはるかに大きな価値がある。それに、日本でバイトで頑張ってお金貯めて、国にもよるけど、後はその国でバイトして学費と生活費を稼げば、自分の力で実現することもできるんだ。

N君・Mさん えーっ、そんな上手い方法あるんですか?教えてくださいよ〜!

私 例えばワーキングホリデーってビザがあるんだ。英語の苦手なN君でもこのくらいなら意味分かるんじゃないの?

N君 ナ、ナンすか、急に。ワーキングホリデーっすか?そりゃ、えーと、えーと「歩く休み」かな? 

私 相変わらず進歩がないのう。ワーキングホリデー、略してワーホリは「働きながら休暇=旅行を楽しめる」っていうビザのことだ。カナダをはじめとして、イギリス・フランス・ドイツ・オーストラリア・ニュージーランドなど20以上の国が発行してる。仕事の内容は様々だけど、カナダならばスーパーや飲食関係なんかだと男女共に仕事が見つかりやすいみたいだ。ウェイトレスで頑張ってる知り合いの女の子は、チップ含めると時給2,000円くらいになるって言ってたぞ。こりゃ、私のトライ時代の給料よりはるかにいい!

Mさん 接客なら、私、自信あります。バイトで稼いでも、日本だと大したことに使ってない気がするけど、外国だと自分の将来に投資するって感じになるんですね。

先生 そういうことなんだよ。現地の英語学校で勉強しながら働くことも可能だ。そうすると、学校だけじゃなくて、仕事場でも実際の生きた英語を学ぶことができるんだ。期間は最低3ヶ月、できれば半年か1年くらい欲しいから、高校生にはちょっと厳しいかもなぁ。でも、これだけは覚えといて欲しい。やる気があれば、元気があれば、成長したいっていう強い気持ちがあれば、それは、君の手の届く場所にあるっていうこと。人生、楽しいこと、ためになることはいくらでもある。それなのに、何にもしないで、グダグダ文句ばかり言ってるのは、せっかく与えられた人生の貴重な時間をドブに捨ててるのと同じだってことさ。

N君・Mさん・Yさん はい、先生。その言葉忘れずに、頑張りま〜す!

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英語の勉強は学校だけじゃない。町、店、道、公園、ライブ会場、、、そこに人さえいれば、そしてほんの少しの勇気で君が話しかければ、全ては素晴らしい英語の勉強になるってわけさ。

 

(15) ローランドの静かで心豊かな日々

 エドの友達に、50年前にドイツから移民としてカナダに来たローランドという人がいるんだ。以前は建築用の鉄鋼を扱う会社を経営していたらしい。多くのカナダ人みたいに大声でべらべらしゃべる事をしない。がっちりした体格で、だいぶ前にトライアスロンやってたらしい。82歳だけど70代前半くらいに見えるよ。エドとローランドは前から誘いあって、近くのエルク&ビーバーレイクというところで早朝散歩を続けている。で、私もその仲間に入れてもらって、何回か一緒に湖の周りを歩いたんだ。そしたら、このじいさん、やたら元気で、往復8キロの道のりを私と同じ歩調で2時間ちょいで歩く。トライアスロンは伊達じゃなかったね。エドは膝を悪くしていてMTB乗ってるから楽勝だ。エドこそダイエットを考えて歩いた方がいいと私は思うんだけどそれは言わない。MTBのサドルから大きくはみ出たエドのケツを見てると、何だか言うのが憚られるよ。

 凸凹のあるトレイルを私と同じペースで歩くローランドの体力も大したもんだけれど、森の中にひっそり佇むローランドの家がまた素晴らしい。スプルースというのかな、こちらの木材をふんだんに使い、前庭に面したガラス窓や大きな天窓からは北国の初夏の光が優しくふんだんに差し込んでいる。壁には世界を巡って集めた様々な装飾品やお面が飾られていて、私が興味深げに眺めていたら、遠い昔を懐かしむような穏やかな口調でローランドが1つ1つ説明してくれた。メキシコ、ニカラグア南アフリカインドネシアカンボジア、ドイツ、インド、チベット、中国、、、「お面たち、夜中にニヤニヤ笑ってるんじゃないですか」と尋ねたら、「かも知れないなあ」と全然意に介さない。ドンキーを二頭飼っていて「毎朝こいつらがブヒブヒ朝飯をねだるから、ローランドは早起きなんだよ」とエドが説明してくれた。

 ドンキー小屋の周りには作業用ピックアップトラック、小型トラクター、何に使うのか分からない機械の奥には、古びたキャンピングカーが骨を休めていた。アメリカ大陸を西に東に南に北に、家族とともに駆けまわったらしい。娘さんと一緒にMTBでサンフランシスコまで行ったり(本州くらいの距離の往復! )、オーストラリアの東海岸を旅したこともあるんだって。故国ドイツには毎年帰る。作業場を兼ねた薄暗いバーン(納屋のこと)には油のこびりついた工作機械、MTB、何やら訳のわからない、しかしそれなりに活躍したり、今も現役で役立っているかも知れないツール類に囲まれて、ワーゲンやフォードのオールドファッションモデルが3台、うっすら埃をかぶって眠っていた。会社を経営していた当時の羽振りの良さが感じられるけど、そんなことおくびにも出さないし、服装も質素というよりちょっとボロで、履きこなしたGパンに擦り切れ穴があったりしてる。色々見せてくれたのは、「キヨシが興味を持つんじゃないか、、、」ってエドが頼んでくれたんだと思う。自分から進んで自分を語るってこと、ローランドはしないと思うから。

 森の中のログハウスの主人は、寝たきりの妻と静かな日々を過ごしている。「もう、旅には出ないの?」と問うと、「もう、十分だよ」という風にゆっくり首を横に振った。散歩の後必ず出てくるオレンジジュースとドイツ風のちょっと硬めのパンケーキをご馳走になりながら、私は壁のお面を飽かず眺めていた。

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静かな早朝の湖の散歩と森の中のローランドの家。情熱を燃やし尽くした遠い日々があるからこそ、今の穏やかな毎日があるのだろう。

(14) なぜ日本人は英語が上手くならないのか?

 今日は教え子のN君とMさんに登場してもらい、日本人の英語について論じてみたぞ。 

N君 先生、お疲れ様です。随分頑張ってるようで大いに励みになります。でも、英語、大して上手くなってないんじゃナィですか?

私 のっけから核心をついてくるのう。しかし、ハッキシ言って余計なお世話です。

Mさん 最初のテストが6点ていうのはショックだったんじゃないですか、お歳だし。

私 ケンカ売ってんじゃねーの、、、ま、いい。あんなのは屁の河童。テストで良い点が取れない君たちの気持ちがよーく分かりました。その意味で、大変貴重な体験であったと、ウフォン、思っとります。

N君 相変わらず誤魔化すの上手いですね、さすがです。で、そちらでの日本人の英語ってどうなんですか?

私 ペラペラの人もたくさんいるよ。でも、全体で見ると、苦労してる割に身につきにくいかなぁ。日本人は恥ずかしがり屋が多いし、日本人同士で固まりやすかったりする。そういうのが英語上達の足を引っ張ってる気がするよ。

Mさん じゃあ、私なんかチョー内気で人見知りだから無理ですね。受験では、英語だけは真面目に勉強したんだけどなあ。

私 君は誰とでもデカイ声でベラベラしゃべるから大丈夫。それに、受験英語はそれなりに役に立つ。でもね、人間出会ったら、まず聞いてしゃべって、、、ってとこから始まるよね。日本人はそれが下手なの。日本の英語教育は今だに「聞く・しゃべる」より「読む・書く」優先だからね。それがいけないんだ。

N君 高校じゃサッカーとバイトばかりで、英語なんて高校受験の後はまともにやってないから自分はダメっすね、きっと。

私 いやいや青年、諦めるのは早いぞ。中学んときの英語があれば基本は大丈夫。それと大事なのは度胸。

N君 度胸かあ。ぼくちん、ビビリだからなぁ、、、

Mさん 私もビビリギャルなんです、先生。

私 ナニ言ってんだか、、、若者よ、元気出さんかい!中学の英語とちょっとの度胸があれば、英語ワールドが開けるんだぞ。それに、度胸ったって、そんな大それたもんじゃない。恥ずかしいって思いを少しの間だけ気持ちの奥に押し込めればいいだけなんだ。最初の一言、二言が出れば、後は中学英語で何とかなっちゃう、タブン、、、

Mさん ほんとかなぁ、、、兄貴が使ってたスピードなんとかっての家にあるから、ちょっとやってみようかしら、、、

私 おお、いいんじゃないか。スピードなんとかとか、駅前留学とか、今はラインでの英語個人レッスンなんてのもあるらしい。色々試して見るといいよ。ただしね、一つ言わせてもらうと、英語ペラペラへの道で欠かせないのは、「壁」を乗り越えるってことなんだ。ガイジンと自分を分け隔てている「壁」を乗り越えること、「ガイジンも自分も同じなんだな、肌の色や見てくれや言葉は違っても、自分と同じなんだな」って感じられれば、その「壁」はすっと消えている。だから、日本で1年間真面目に英語を勉強するより、例えば夏休みの1ヶ月外国に行ってガイジンと生の英語で話す、この体験がスーパー大事なんだよ。

Mさん・N君 なーるほど。先生、少しはいいこと言うんですね。ありがとうございました。

私 いやいや、どーいたしまして。この続きはまた、どこかで話しましょう。

 

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男女の違いは大きな意味を持たない。 世界の国々から、様々な考え方、人種、宗教、文化、年齢の人たちが集まる。そして、それぞれの目的意識や勉強に対する熱意もバラバラなんだけど仲間になり一緒に勉強する。一生の財産になる得難い経験。

 

(23) ビクトリアという町

 

 最初は「なんてのどかで安全な町なんだ」と思いつつ、観光の町特有の"退屈さ"みたいのも少しあったかな。でも、レストラン、携帯屋さん、本屋、紅茶屋、スーパーマーケット、バス、バス停で一緒になる人、いろいろなところで人と出会い、知り合いが増えるにつれ町に愛着が湧いてきた。そして、ビクトリアの美しく平和な佇まいの奥に、入植以来二百年余にわたる人々の血と汗と涙があったことを知り、この町が大好きになった。

 ビクトリアは東北地方くらいの大きさのバンクーバー島にあって、カナダのブリティッシュ・コロンビア州の州都、日本の県庁所在地みたいなとこなんだけど、大陸側(こちらではメインランドって言ってる)のバンクーバーの方がオリンピックをやって有名だし断然大きい。人口は八王子58万人、バンクーバー68万人に対し、ビクトリア9万人。気候温暖で一年を通して過ごしやすい。リタイアしたお年寄りに大人気なんだとか。ホームレスも冬になるとカナダ東部から移動してくるって聞いた。一昔以上前、毛皮やアラスカのゴールドラッシュで好景気に沸いたこともあったけど、今は観光が主な産業になっているみたいだ。

 ビクトリアという名前は、イギリスのビクトリア女王に由来しているんだ。大航海時代の最後、イギリス人のキャプテンクックによりバンクーバー島が発見され、後輩のバンクーバーさんが現在の礎を築いた。最初に築かれたのは砦だった。ビクトリア観光の中心地バスチョンスクウェアのバスチョンとは「砦」を意味していて、私の通った学校SSLCはその一画にある。植民地主義の時代、ヨーロッパ列強や新興アメリカがドンパチ血なまぐさい戦いを繰り広げていた場所で、私はのどかに勉強してたってことになるね。

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左から ① 町中からアメリカ・シアトルのオリンピック山脈が見える ②バスチョンスクウェアの入り口。奥の赤い唐辛子(本当はチューリッブ)の手前にSSLCがある ③古い町並みを残すために、昔の建物の外壁を生かして新しくビルを建ててる。歴史の浅い国だからこそ古いものを尊ぶのだと思う ④バンクーバー島発見者のキャプテンクック。南極やオーストラリア探検などで歴史に名を残した人だ

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 左から ①バスチョンスクウェアには週末になると露店が出て観光客で賑わう ②おしゃれな店が集まるベイセンター1階の大きな方位標。左2人の間に「TOKYO7586Km」とある ③ベイセンター4階のフードコート。学校帰りの留学生がおしゃべりしてる。真面目に勉強する子は図書館行ってるみたい ④どういうわけかカモメがやたらと多く、糞がヤバイな〜と思ってたら私の靴の上に落ちた。すごい確率!こんなことに運を使いたくない

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左から ①ホームレスと一般市民との垣根がない。ホームレスも自分に自信を持って生きているみたい ②ゴミ回収のおじさん。アルミ缶やペットボトルは買い取ってもらえる。リサイクルに対する意識はかなり高い ③バスからプレートが出てきてお年寄りの電動車椅子が難なく乗り降りできる。この電動車椅子、町中でも始終行き交い、みんなが道を譲る。進化して悪路も大丈夫になったら死ぬまでフライフィッシングができるかも! ④バスの前には自転車が取り付けられる。もたもたしてると運転手が手伝ってくれる

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左 ロジャースのタクヤ君 ロジャースってのはカナダでは大手の携帯屋さんなんだけど、たまたま入ったら日本人がいて、それがタクヤ君だった。私は元々スマホ・PCともドツボだから、タクヤ君の存在は本当に助かった。ロジャースとはもちろん正式な契約をしてるんだけど、本来の仕事以外のことも「困ってることあったら何でも言ってください」って軽く言うもんだから、最後は調子ん乗ってフェリーの予約までやってもらった。「スマホ音痴」「ネット決済嫌い」の私にとって、タクヤ君は何と頼り甲斐のある存在だったことか!

右 サンドイッチ屋のメイおばさん こっちの食べ物ってのは味に「間」がない。ケチャップ味だったら最初から最後までケチャップだけ。数少ないカナダの郷土料理プーツィンなんか、脂っこいプーツィン味で押しまくってくる。メイおばさんが作るサンドイッチとスープは、濃い味に囲まれた毎日の食生活の中で、ホッとする家庭料理の味だ。「アラスカに出発したら、しばらくこのサンドイッチ食べられないな」って言ったら、「あんた、アラスカなんて素晴らしいじゃないの。私もいつか行ってみたいもんだよ」って言って、店の名前の入ったボールペンくれた。メイおばさん、ありがとう。大事に使わせてもらうね。

(13) アレンじいさん〈その2〉

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左:写真を撮ろうとしたら、慌ててボロジャンパー脱いで行儀よくカメラに収まった。  右:クルーザーを引っ張り上げ、さらにその後2時間かけて水洗い。海の男のルーテイーン。

 5時間のクルージングが終わりハーバーに戻った。「キヨシ、クルマを取ってくるから、このロープを持っていてくれ。クルーザーが波に持ってかれちゃうからな。しっかりホールドしとけよ」。アレンはフォードの馬鹿でかいピックアップトラックを水際まで進める。後部に取り付けられたクルーザーのキャリアは半ば水の中だ。トラックから降りたアレンは斜めに傾斜した滑りやすい桟橋を、体を少し右に傾けながらゆっくり歩いてくる。そして、「足元がだいぶ覚束ないな」という私の心配を一蹴するかのように、やおら水の中に靴のまま進み、クルーザーにロープを固定し始めた。8月とはいえ、北国の海は冷たい。しかも海底は海藻で滑りやすいというのにである。ロープを固定し終わり、今度はウィンチアップでクルーザーをキャリアに載せる。電動ウィンチなら簡単だろうが、アレンのは人力でガラガラカチカチ、ワイヤーを巻き取らなければならない。アレンが巻き取りの作業を始める。ガリ、リ、リ、リ、とギヤのクリック音がする。ゆっくり、少しずつ、クルーザーがキャリアに近づいてくる。アレンは何食わぬ顔で把手を回そうとするが、キャリアに近づくにつれ船体が水面から引っ張り上げられ、海水の浮力が減った分重くなる。そして把手を回すのがしんどくなる。アレンの顔は赤から青に変わってきた。「アレン、俺にもやらせてくれよ。アレンにばっかりやらしちゃ申し訳ないし、俺にも"海の男の仕事"を手伝わせてくれよ」。「そうか、お前もやってみたいか。ま、いいだろう、、、」とポジションを替わる時、アレンがゼイゼイ息を切らしているのがはっきり聞こえた。

 

 エドの家に帰ったのは夕食前だった。「キヨシ、今日の船旅はどうだった?」とキャリアナが聞いてきた。「サイコーだったよ。アレンは俺の人生の大先輩だよ」。そう聞いて、キャリアナも嬉しくなったのだろう、下の紙片を私に寄越した。

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アレンじいさん最高!私もアレンじいさんみたいな歳の取り方したいな、周りはちょっとタイヘンだけど。

【お知らせ】今後、Wi-Fiはもとより携帯も繋がらない場所に行きますので、今までのように定期的にはアップできなくなります。でも、週2回のペースは崩さないようにしたいと思っています。よろしく!

 

 

(12) アレンじいさん〈その1〉

 エドの家には色々なお客さんが来る。友人、知人、以前ステイしていた人、親戚などだけど、1ヶ月もしないうちに、私はそれらの客人をもてなすメンバーの一人になっていた。勉強が忙しかったり疲れているときは「なんでやねん、、、」と思うが、ホームステイというのは家族の一員のようにすることらしいし、これも異文化体験だ。余程のことがない限り参加し協力するようにした。 

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左からエド(ホストファザー)、クレイトン(キャリアナの弟さん)、マナ(以前のステイメンバー。後で復帰)、ジューン(キャリアナのお母さん)、キャリアナ(ホストマザー)、アシュウィン(以前のステイメンバー。超優秀なITエンジニア)、アレン(キャリアナのお父さん)

 アレンじいさんはキャリアナのお父さんで92歳。以前は車の修理工をやっていたが、今はリタイヤして、86歳になる妻のジューンとひっそり二人暮らしだ。で、どういうわけか、私はアレンと気が合う。アレンは実に元気がいい。声もでかい。とても90代には見えない。下ネタが大好きで、クイズをすぐに仕掛けてくる。私が答えられないと「お前、そんなのも分からないのか。しょーがねーなぁ、答えはな、、、」てな感じ。逆に私が英語のトンチを出して、例えば「赤い顔して紙をパクパク食べるの、なーに?」とか「未亡人が海水浴に行きました。砂浜で食べるお弁当はなんですか?」なんてのだが、答えられないと実に悔しそうな顔をする。会って2回目くらいの時、アレンが「俺が船を出すから一緒に来ないか」と誘ってくれた。船ってどの程度のモノなんだろう。クルージング(cruising)と言わずにボーティング(boating)と言うところからして、井の頭公園の池のボートをちょっと大きくした程度のものなのかな。いくらなんでも動力はあるんだよなあ。何だかイメージが全然わかないが、折角だからこのお誘い、ありがたく受けることにした。

 

 「Hey、キヨシ。どうだ、この海は。気持ちいいだろう。海ってのはな、広くて気持ちよくて自由なんだぞ」、「おい、キヨシ。わしはな、ここから見える景色が大好きなんだ。遠くまで見渡せるし、コーヒーは美味いし、最高だぜ!」。実際はエンジンの音がうるさくてアレンの声はよく聞こえなかった。でも、アレンの目を見れば、こんなことを言いたいんだと分かる。アレンは決して金持ちではない。体もだいぶガタがきていて、ゆっくりもたもた歩くのが精一杯だ。でも、気持ちがバリバリ若い。昔、日本の演歌に「ボロは着てても心の錦、、、」というのがあったが、まさにあれを地でいっている。自分は何が好きなのか、自分は何をしたいのか、自分にとって何が大切なのか、全て分かっている。それを実践している。「いくら言ってもアレンはお医者さんに行かないのよね」とキャリアナはこぼすが、アレンは命がけで自分の好きなことをやっている。最後の最後まで自分の人生を生き切ろうとしている、私にはそう思えてならないんだ。 

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ハンドルを握るとアレンのハートにスイッチが入った。エンジンの回転数をどんどんあげ、静かな入江に爆音が響き渡った。

 

おっと最後にトンチの答え。「郵便ポスト」(カナダでもポストは赤かった)と「サンドイッチ」(理由は自分で考えてみて)でした。

 

▶︎(13) アレンじいさん〈その2〉に続く

(11) 何を食べりゃいいんだろう〈自炊〉

 エドんとこのホームステイは「ご飯無し」なんだ。カナダの人が作った料理が自分の口と言うより胃に合わなかったら半年間辛い思いをしなくちゃいけない。消化器系に弱点がある私は、体調崩すかもしれないしね。だから、半自炊生活をしてるんだ。朝は簡単にパンかシリアル。昼は外食。そして夜は自炊ってパターン。簡単なのも含めると、半年間で百回近く料理したことになる。料理は嫌いじゃなかったけれど、毎日ってことになるとそりゃもうターイヘン。最初に「何が食べたいかなぁ」ってメニューを考えるなくちゃいけないんだけど、食べたいものがちっとも思い浮かばないこともある。次に、冷蔵庫に何があるかチェックし、足りない食材は自分で買いに行く。味と栄養以外にも、安いか、長持ちするか、新鮮か、いろいろな料理に広く使えるかなど、考えなくちゃいけない要素がたくさんある。なるべく少量のものを選ぶってのも単身赴任の身として大事なことだな。料理そのものも決して易しくはないけれど、グーグルで調べられるから、これは大いに助かるってか、これ無いとほぼ無理。米は何曜日に炊いてとか、肉は多めに買っていくつかに分けて冷凍にしておくとか、ほんとメンドーかつややこしい。生活が不規則になると具材を腐らしたりして実害も出る。だから、生活全体が料理に縛られる、つまり規則正しくなるって、これは予想しなかった半自炊生活のプラス面でした。野菜は、日本と大体同じものが置いてあるけど、キャベツは変な品種だった。フルーツは安くて種類も日本より豊富だから、随分助けられたよ。いくつか、認識を新たにしたことを述べると、

①主婦は偉大だ。みんな、お母さんに感謝しないといけませんよ。

②シリアルなんて、、、とバカにしていたが意外と美味くチョー便利。

③料理ってのは日曜大工で棚つくるのに似てるんだな。

④カナダはロクなレトルト売ってない。

⑤カナダのキャベツはダメだった。ジャガイモは主食になり得る。

 半年のカナダ生活で、英語は思ったほど上達しなかったと思う。でも、料理の方は、明らかに上手くなったね。喜んでいいのか分からないけれど。

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