おやじは荒野をめざす【カナダ編】

30年間続けた塾を閉じ、私は北極海をめざす旅に出た。物好きオヤジの旅の記録が教え子たちへの課外授業となってくれることを願って、このブログを綴る。

(31) アメリカへの旅〈女神とミッキーの住む都〉

 観光名所というのは元々苦手なんだけど、これだけは見とこうと思ったのは「自由の女神」と「エンパイアステートビル」だった。

 地下鉄駅からフェリー乗り場まで歩く途中で、あのお馴染みの形と色のスタチューが海の上遠くに見えてきた。フェリーが動き出し、カモメが周りをせわしげに飛び交う。振り返ると、マンハッタンがなんだかこじんまりしてとしている。超高層ビルが林立し、土地の値段は世界で恐らく最も高いだろう。世界中から様々な肌の色の人間がアメリカンドリームを求めて蝟集する。名誉、権力、金、、、あまたの欲望が渦巻く、その中心が意外とこじんまり、可愛らしく見える。

 

 女神がいよいよ間近になる。雨上がりの抜けるような青空をバックにそびえ立つ女神は力強く、美しい。ワシントンで、私は博物館や公園を巡り、アメリカの戦争の歴史をたどってみた。主だったものだけでも、一次大戦、二次大戦、朝鮮戦争ベトナム戦争アフガニスタン湾岸戦争、、、アメリカはいつもどこかで戦争をしてる。そして、それぞれの戦争について、どんな戦いであったか、戦死者はどれくらいだったか。自国民は勿論、そこを訪れる外国人訪問者に対しても、はっきりと分かりやすく説明する。そして、高らかに宣言する「我々は自由のために戦ったのだ」と。女神の穢れのない顔と右腕で高く掲げられた松明。何の説明もないけれど、アメリカという国が最も重んじ、彼らの存立基盤と言える「自由」を形にして、ニューヨーク港の入り口、家で言ったら玄関先みたいなとこにドンと据えた。アメリカという国は自己主張が実にはっきりしている。そして「自由の女神」を見ていると、アメリカってのはつくづくセルフプロデュース(自分が何者であるかの自己紹介みたいなもの)の上手い国だなと思う。歴史が浅い移民の国である。奴隷制という暗い過去もある。経済がいくら巨大になっても、ヨーロッパに対してどこかで引け目を感じている。このまんまじゃいつまでたっても流れ者の寄り合い所帯じゃないか。みんなをまとめるものが欲しいな、なんて考えていた当時の為政者たちの頭の中にピカッと閃いたのが「自由」だ。短く簡潔、親しみやすく分かりやすい。肌の色が違っても、自由はだれにでも受け止めやすいはずだ。アメリカ独立の往時に想像をめぐらしながら、私は女神を巡る遊歩道を歩いた。

 

  エンパイアステートビルは、超高層ビルが集まるマンハッタンのど真ん中にあった。地下鉄を降りて地上に出ると、こちらもまた見慣れた造形がすぐに目に飛び込んできた。大勢の観光客に交じって行列に並び切符を購入。矢印の通りに通路を移動し、指定のエスカレーターで展望階にたどり着いた。高いところから遠くを見る。雲がだいぶ出て来たけれど、それなりに見えた。あと何十ドルか払えば最上階まで行けるみたいだけどやめといた。記念写真の有料サービスがあったけれど自撮りで十分。トイレだけ済ませて、私はそそくさとビルを後にした。エンパイアステートビルは有名だけど、単なるのっぽの商業施設、そんなところだった。これが建てられた百年前だったら大感動なんだろうけど、今はこれくらいの超高層は珍しくない。昔売れてた歌手が、名前だけで客を集めてライブやってるみたい。その割に入場料、高かったなあ。

 ビルの近くの歩行者天国でミッキーとミニーが観光客と肩組んで写真撮ってるのに出くわした。うちのカミさん、大のミッキーファンだからちょっと羨ましがらせてやろうと思って、私も肩組んで写真撮った。最初はミニー、そして次にミッキー。Thank you so much! と言って去ろうとしたら、ミッキーが手を出すじゃないか。えっ、何、これ?ミッキー野郎が前に立ちふさがり、なら、逆方向と思ったら、そこにはミニーババアがいる。Twenty! とか言っちゃって、ふざけるな!だよね。しかし仲間が集まるとやばいぞ。チキショーと思いつつ、私は20ドル札で厚くなった財布から5ドル札を1枚だけ素早く抜き出し、パッと渡して、サッと立ち去った。なんか文句言ってるようだけど、知るかってんだ、ムカつくぜ。

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自由の女神」に気おされてマンハッタンまでこじんまり、、、 / エンバイアステートビルはお上りさんだらけ / このミッキーが食わせ者だった。ニューヨークにはめられたって感じだな

 

 午前中は「自由」や「国家」についてあれこれ考えた。午後は高いところに上がれば遠いところまで見えるということを高い授業料を払って学び、ついでにチンピラに5ドル巻き上げられた。ああ、ここはアメリカ、ああ、ここはニューヨーク。いい体験になりました。

 

 

「おやじは荒野をめざす【カナダ編】」は今回で終了です。ちょっとだけ間をおいて「おやじは荒野をめざす【ユーコン・アラスカ編】」をお届けします。よろしく!