(28) アメリカへの旅〈青春の彷徨〉
現代アメリカの文化を特徴付ける三つの要素を上げるとすれば、「ジャズやロック、ミュージカルなどの大衆音楽」、「大リーグ、バスケ、アメラグなどのビジネス化されたスポーツ」、そして「ウーマンリブやヒッピームーブメント、最近のミートゥーなどの大衆的な社会運動」じゃないかな。どれもエネルギーに満ちていて、これは西部開拓時代のフロンティアスピリットに由来するのかも知れない。で、今回取り上げるのは音楽。サイモン&ガーファンクルという一昔前のフォークデュオの残した「アメリカ」という曲だ。ちょっと長いけど、歌詞とその訳(私のヘボ訳だけどね)を以下に示す。
"Let us be lovers, we'll marry our fortunes together" 僕たち、付き合わないかい、いつか結婚することも考えて
"I've got some real estate here in my bag" バッグには少しだけどお金もあるんだぜ
So we bought a pack of cigarettes and Mrs. Wagner's pies そして、タバコとワグナーさんのパイを買って、僕たちは旅に出たんだ
And walked off to look for America アメリカを探す旅に出たんだ
"Cathy," I said as we boarded a Greyhound in Pittsburgh 「キャシー」、僕はピッツバーグでグレイハウンドに乗る時に言ったものさ
"Michigan seems like a dream to me now" 「今となっては、ミシガンは夢のようなとこだったね」
It took me four days to hitchhike from Saginaw サギノーから4日かけてやって来たんだ
I've come to look for America アメリカを探すためにね
Laughing on the bus, バスの中では顔を見合わせて笑ったりゲームをしたり
Playing games with the faces
She said the man in the gabardine suit was a spy 「ギャバジンスーツのあの男はスパイよ」と彼女は言って
I said "Be careful, his bowtie is really a camera" 「注意しなくちゃ。あの蝶ネクタイはまずカメラだな」と僕が言う
"Toss me a cigarette, I think there's one in my raincoat" 「タバコを取ってくれ、レインコートの中にあると思う」
"We smoked the last one an hour ago" 「一時間前に最後の一本、吸っちゃったでしょ」
So I looked at the scenery, she read her magazine そうだったか。僕は窓の景色を眺め、彼女は雑誌を読んだ
And the moon rose over an open field 広々とした原野にはお月様が昇っていた
"Cathy, I'm lost" I said, though I knew she was sleeping 「キャシー、僕は何にも分からなくなってしまったんだ」
And I'm empty and aching and I don't know why 「虚しくて、隙間風がピューピュー吹いて、どうしてなんだろう?」
Counting the cars on the New Jersey Turnpike 彼女の寝顔に僕は声をかけた。ニュージャージーの有料道路を走る車の数を数えながら
They've all come to look for America あいつらもみんなアメリカを探しているのかな
All come to look for America みんな、探しているんだな
All come to look for America アメリカをね
カナダからの一時帰国の折、私は短いアメリカ旅行をした。ワシントンではホワイトハウスやアーリントン墓地、ペンタゴン、ボストンでは美術館やジャズのライブハウスなどを巡り、そして最後はニューヨークだ。本当はもっと若い時に行きたかった。でも、自分なりにアメリカを感じるために、アメリカを探すために、ニューヨークにはグレイハウンドのバスで入ったんだ。今じゃタバコは吸わないしパイも買わなかったけれどね。