おやじは荒野をめざす【カナダ編】

30年間続けた塾を閉じ、私は北極海をめざす旅に出た。物好きオヤジの旅の記録が教え子たちへの課外授業となってくれることを願って、このブログを綴る。

(24) バンクーバー島北部への旅〈開拓時代〉

 基礎英語からIELTSクラスへ移行するときに上手く休みを作って、バンクーバー島北部への旅に出た。野生動物の危険の度合い、野宿、車の運転(こちらはキープライト)、トレイル(登山道)の状況、釣りなど、アラスカ行の予行演習も兼ねたものだった。

 バンクーバー島は東北地方と同じくらいの面積で、州都であるビクトリアはのどかで平和そのものだ。だけど北部は全然違う。一言で言うと「開拓地」だね。今から百年前の屯田兵が活躍した頃の北海道、そんな感じかもしれない。

●原野の行き止まり 私の場合、旅の移動手段はクルマが基本だ。クルマで行けるところまで行って、後は歩く。このやり方がここでも通用するか確かめなくちゃいけない。まずはスコット岬を目指すことにした。何も知らない土地で目的地を決めるのって、結構難しいんだ。スコットっていうのは、南極点に人類で初めて到達して、その後遭難した悲劇のイギリス人なんだ。地理の資料集に載ってるぞ、多分。その偉大な探検家の名前のついた岬なんだから、なんだか、やる気出てくるじゃないかって、これは私だけかな。その岬へのトレイルの入り口を目指して車で林道をどんどん進んだ。ハンドル操作を誤ったら一巻の終わりの大きな谷の上部の道を過ぎたあたりで薄暗くなり、小雨も降り出した。道はいよいよ狭く厳しくなって、クルマの通った跡もいつしか消えてしまった。道にせり出した小枝が、新車同然のレンタカーの側面を容赦無くこする。キズつくのは困るけど、"落下する"のは困るレベルの問題じゃない。キーキーコシコシ、キーキーコシコシ、神経を逆なでする音がなり続ける。もうやめろろ。ストップしろ、、、そこから500メートル進んだ地盤のしっかりした場所、ブッシュ以外には何にもない原野の真っ只中で、獣の気配にビクビクしながら、そして「なんでここまで突っ込んでしまったんだ」の自責の念に苛まれながら、不安な一夜を過ごす羽目になったのでした。

●最果ての町ホルバーグ この町より先に人家はない。町らしいものは、ガソリンも扱ってる雑貨屋と名も知れぬ酒場兼食堂の二軒だけだ。そのレストランは西部劇の喧嘩シーンが目の前であってもいかにもって感じの、開拓地唯一の憩いの店みたいな雰囲気で満ちている。こんな店、日本じゃ考えられません。で、感激したのがハンバーガー。開拓地だからろくな料理は出てこないって思ってたんだけど、分厚い肉がでっかいバーンからはみ出ていて、フライドポテトは皿からこぼれ落ちてる。口をでっかく開けてガブってかじりつき、肉汁ジュワー、サイコー。今まで食べたハンバーグのNo.1テイストでした。

●木材運搬トラックのおっさん 決して広くはない林道のカーブを、はみ出るような巨体を器用にくねらせて、木材運搬のトラックが曲がって来た。ディーゼルオイルと伐ったばかりの針葉樹の匂いがあたりに漂う。運転してる結構年配のおっさん、なんてかっこいい"男の仕事"をしているんだろう。なんだか楽しくなって手を振ったら、カーブの途中で巨体を停止させて、こちらに降りて来た。「大丈夫か?道に迷ってんじゃないのか?」。こっちは遊びでおっさんは仕事中というのに、私のことを案じてくれているんだ。「そうか。旅してるってわけか。釣りだったら町の手前の湖がいいぞ。俺はこんなにでっかいの、この前釣ったし」。顔中しわくちゃにして白い歯を出して笑う。あんたは開拓地に生きる男だな。開拓地では、人は協力し合わなくちゃいけない兄弟みたいなものなんだな。大自然の中の人情、Thank you so much!

 

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荒野の立ち往生。後で見ると全くどうってことないみたいだけど、見ず知らずの外国、一人、真っ暗闇、何が出るか分からない状況だと、、、/最高のハンバーガー。次の日は焼肉バーガーにしたら、そちらはまあまあだったけどね/突然のでっかいトラック登場。荒々しい自然の中で心じんわりの人情を感じることができた