おやじは荒野をめざす【カナダ編】

30年間続けた塾を閉じ、私は北極海をめざす旅に出た。物好きオヤジの旅の記録が教え子たちへの課外授業となってくれることを願って、このブログを綴る。

(25) バンクーバー島北部への旅〈足跡〉

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 これ、何だか分かるかな。

 

 トレイルヘッド(登山口)に車を置いてサンジョセフベイという浜辺に向けて歩き出した矢先、「ここはオオカミがいる。各自、自己責任で気をつけるように、、、」なんて標識が出てきた。さすがカナダ、最果ての地なんて感動しつつ、マジッスカ、勘弁してくださいよ、、、の思いがにわかに沸き起きる。トレイルは鬱蒼とした森の中を進むが、道自体はよく整備されているし道標もしっかりしているから、道に迷うことはなさそうだ。でもね、やはり心細いよ。日本で山歩いてて何回かクマに遭遇したけれど、それの比じゃない。赤頭巾ちゃんはオオカミに騙されて一度は食われてしまうけど、あとでオオカミの腹から出てくるんだっけかな。現実のオオカミは勿論そんなに甘くない。数頭の群で獲物を襲う賢く残虐な獣。ああ、嫌だ、嫌だ。常に周りに気を配り、クマ鈴をジャラジャラいわせ、笛を吹き、もちろん腰にはクマスプレー装着だけど、気持ちが全然落ち着かない。そもそも、やばいのはオオカミだけじゃないんだ。ここにはクマもいる。ブラックベアと言って、日本のツキノワグマみたいなやつで、性格は比較的おとなしいなんて本には書いてあったけど、クマはクマだから、やはりあまり気持ちのいいものじゃないよ。時折立ち止まり、変な音がしないか、匂いは大丈夫か、確かめながらの前進だ。ああ、できることなら引き返したい、、、なんでオレ、いい歳こいてこんなことやってんだろう、、、あーじゃこーじゃ考えながら、でも不思議と足は止まらず、1時間ちょっとで木立の間から海が見えてきた。浜辺に出れば見晴らしがきく分、少なくとも森の中よりはマシってんで、さらにペースが速まる。

 森が途切れて、目の前に広々とした海が開けた。低い波が遠くでザブンと優しい音を立てる。とりあえず、砂浜全体を見渡してみる。大きめのイヌみたいのとか、黒い塊がどこかでもごもご動いていたりしないか、じっくり眺める。双眼鏡を取り出して、さらに細かくチェック。取り敢えずオオカミ、クマは大丈夫のようだ。おまけに、人の気配も、うむ、全くない。川の流れ出しの方になんとなく歩いて行ったら、「ん、なんだろ、これ?」って写メしたのが冒頭の写真だ。どう見てもこれって「あれ」じゃないか。クマのじゃないよな。誰かが大型犬の散歩に来たのかな、、、なんてあり得ない。近くに人家は全くないし、そもそもこの獣の足跡しかない。注意してみると、そこかしこ、縦横に足跡がある。1頭じゃない。2頭かそれ以上か。これ、やばいんじゃないか。双眼鏡で、もう一度遠いところまでチェックする。

 足跡が物語るものは何なのか、推理してみる。足跡は明らかに川の流れこみ周辺に多い。流れの中の獲物、例えば遡上するサーモンでも狙っていたのか。何か食べ物がないか、自分たちのテリトリーの定期的なパトロールのようなものなのか。群れというほど大きくない、恐らく2、3頭の小集団ではないか。もしかしたら、彼らは私が浜に出る前に私の存在をキャッチして、先に姿を消したのかも知れない。遠くのブッシュまで双眼鏡で入念にチェックするが、妙な気配は無いようだ。彼らが遠巻きに私を見て攻撃のタイミングを計っているという可能性はまずないだろうと判断した。冷静に分析したら、気持ちも落ち着いてきた。

 自分は今、カナダのウィルダネスに身をさらしている。だから、この状況はなるべくしてなったというか当たり前の事だろう。そもそも、これを求めて、ここまでやって来たのだ。と言うことは、この足跡は私が望んでいたものそのものじゃないのか、、、砂地に腰を下ろし、心地よい潮風をほおに受けながら、私はいつまでもそんなことを、時折あたりをキョロキョロ見渡しながら、取り止めもなく考えていた。

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バンクーバー島は"島"だからって、最初はちょっと舐めていたとこがあったんだけど、混じり気のない本物のウィルダネスを十二分に体感させられました。