おやじは荒野をめざす【カナダ編】

30年間続けた塾を閉じ、私は北極海をめざす旅に出た。物好きオヤジの旅の記録が教え子たちへの課外授業となってくれることを願って、このブログを綴る。

(17) ジャック・ケルアック「オン・ザ・ロード」

 

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アメリカにも自分みたいのがいるんだ、、、と感じた青春の一冊。

 

 今の若者は本を読まないみたいだね。分かっちゃいねえな、、、と思うよ。

 

 アメリカの近現代文学ジャック・ケルアックという人が書いた「オン・ザ・ロード」という小説があって、邦題は「路上」。青春の迷いの真っ只中にあった私は、繊細で不安定かつ反抗心に満ちたこの小説にググッときた。今から50年近く前の話だけどね。学校の先生が急に嘘っぽく感じられたり、親の言うことに無性にムカついたり、そんなこと、君にもあるだろう? ムカついてゲームしてムカついたの忘れて、でもまたイラついてゲームして少しスッキリして、、、それでも構やしないけれど、自分と同じ事を感じてる奴が地球のどこかにいたら、そいつと話してみたいと思わないかい? 本の中では、君と同じ気持ちの子に出会ったり、色々教えてくれる先輩がいたり、こいつとなら駆け落ちしたっていいって思う異性にめぐり会ったりするんだよ。

 英語の基礎コースESLの授業で、担当の先生とひょんなことから文学についての話が始まり、私は思わずこの「オン・ザ・ロード」について語ってしまったんだ。「若い時は始終旅をしていたんだ。日本国中、ヒッチハイクでね。だから、この小説は、心理についてであろうと風景であろうと、やたら自分の感性にビビッときたんだ。最初の1ページ目から、何でも理解し合える昔からの友達と話してるような気分だったよ。言葉も食べ物も文化も全然違うのに、同じ気持ちを分かち合えるっての、面白いよね。ところで、ケルアックはカナダでは読まれているの? 人気あるのかなぁ? もう、亡くなってしまったんだろうね、、、」。好きなこと、興味のあることについて語る時、人は饒舌になる。まだ十分には使いこなせていない英語をしゃべる時だって同じさ。話したい気持ちが先走って、必死に振り絞った英語が後からついてくる感じ。例の壁なんかとっくに消えてる。先生が「ケルアックはだいぶ前に亡くなっているよ。ケルアックを読むと、なんて言うかな、旅に出たくなるよね。僕はバショーという人のオクノホソミチを読みたいんだけど、手頃な英訳本がないんだよ、、、」と答え、私は「そうか、確かにどちらも旅から生まれたってのは一緒だよね。でもオクノホソミチは俳句という日本独自の詩の形式が中心だから、英訳はちょっと無理かも知れないなあ。『ナツクサヤ、、、』って言われたって、ビクトリアの爽やかな気候じゃなくって、日本のうだるような暑さの夏、それじゃないと雰囲気伝わんないかもなあ。でも、日本は紀行文学というジャンルが結構盛んで、例えば『土佐日記』なんか読みやすいかもしれないよ、英訳本があればだけどね。作者はえーと、えーと、、、」と返した。

 日本とカナダ。遠く離れた異なる文化の中で育った者たちが同じものに出会い、共通のものを感じ、はたまた異なる感慨を抱く。この「共通」と「相違」の渾然一体=ミクスチャーが異文化体験の一つの醍醐味なんだな。